市民が提案する
「国営瀬戸海上の森里山公園」のマスター・プラン

 

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 4.里山公園ではどんなことをやるのか?


 
 里山公園で行うべき業務としては、考えられるだけでも次のようなことがあります。

 1) 海上の里の田んぼ耕作と管理、放棄された田んぼの復活、無農薬・有機農業

 里山の基本は田んぼです。美しく刈られた畦、階段状に耕作された棚田、たわわに実り穂を垂れる稲穂、カエルやタガメなどのいる田んぼ、アカトンボやチョウの舞う田んぼ、田んぼに舞い下りるサギなどの鳥類の姿、それらの復活は、生物の多様性イコール美観といえるのです。もちろん、無農薬・有機農法によります。60年代以前は農薬も殺虫剤も消毒薬もありませんでした。農薬使用は、田んぼの生態系を破壊してきたのですから、手間ひまがかかっても、それが守られなければなりません。絶滅したコウノトリもその犠牲者です。

 2)里山林の手入れ

 里山林の手入れは欠かせません。皆伐が良いのか、選択的伐採が良いのか、詳しく研究する必要はあるものの、森の木を利用することによって里山林が成立してきたのですから。基本的には樹木を切ることから出発するべきです。どのような目的で切るかによって、炭焼きによる炭の生産、陶磁器生産のための燃料、建築用材・家具用材、竹細工の材料として竹林の伐採などは従来から行なわれてきたものです。前述した現代的な里山林利用も考えていかなければなりません。炭焼きに関しては、木酢生産も視野に入れておく必要があるでしょう。竹林も、早く利用する道を考えないとはびこるままになります。竹細工製品の生産も重要になるでしょう。竹の炭がいろいろの用途に使われるようになりました。竹炭生産も実施することにしましょう。竹は1年間に10〜15mにも成長します。他にはそのように成長の早い植物はありません。

 3) 水辺の管理

 池沼や河川などの水辺の管理も重要な要素です。池沼や各河川の水辺は多様な生物が集まる重要な環境ですが、また人にとって景観が重要な環境でもあります。池の広々とした景観や歩きながらかいま見える流れの様子などは海上の森の貴重な要素です。多年草を主とした背の高い雑草の群落が一様な景観を作らないように、流れや地形の管理が必要です。しかし、今の状態が保たれていくためには、小規模な洪水や土砂の流出も必要になる、という大きな問題を含んでいます。また動物が隠れるような低木や背の低い水辺の植物も、水辺の生態系には重要な要素です。アシやガマのような大型の雑草の群落も、規模や人との距離によっては必要になってきます。

 帰化植物の侵入は大きな問題ですが、抜き去るなど積極的に排除しようとすると、更なる撹乱を引き起こし、イタチゴッコとなる恐れもあります。火入れや草刈りなどの管理や池の水位の管理などを試みるべきではないでしょうか。森林の生態に比較すると、草地の生態系は撹乱による変化が大きい存在です。景観に大きな影響を与えるのは、自然生態の変化とともに人による撹乱があります。水場に近寄る場所を整備するとともに、柵や水量の管理によって人が入る範囲を制限することも重要だと思います。視線の方向が制限されることによって、景観のみならず生態系全体の保全も図られるものと考えます。

 4)自然観察会、探鳥会など

 環境問題が大きくなるに連れて、自然観察を目的にした市民グループが各地に誕生しています。自然観察会や探鳥会などです。公園運営には、これは当然取り入れて市民団体と共同の企画運営をすることが必要です。またそのための指導員を養成する必要があります。松茸やきのこが生える環境を整えたり、山菜取りなどの企画も里山とのつながりを楽しく学ぶチャンスにします。

 5)体験の伴った環境教育の場へ工夫

 せっかく豊かで広い身近な自然学校があるのですから、体験し、感じることを中心にした楽しい環境教育の場として利用しましょう。合い言葉は、「自然はわたしたちを助けてくれています。だから今度は、わたしたちが自然を助けるのです」。田んぼや畑、山仕事、陶芸職人などのベテランを先生に、子どもも大人もいっしょに学びます。田んぼをしたり、木を切ったり、土をこねたりのすべてに、自然を知るというプログラムがごく自然に入っています。大人が作って提供する冒険の森ではなく、解放区のような自由な空間と秘密の場所を、子どもたちにプレゼントできるのではないでしょうか。

 6)穴窯よる里山の利用の再現

 海上の森には、古くは平安時代から鎌倉時代の穴窯の跡があります。その発掘成果は瀬戸市の民族資料館や近くにある愛知県陶磁器資料館に展示してあります。資料館的展示はそちらに任すことにして、そこではできない穴窯の再現をしてはどうでしょうか。穴窯をどういう条件で作り、土はどこで掘ったのか。作った焼き物はどのようにして運んだのかを探りながらの再現は、海上の森という自然と文化の歴史を学ぶことになるでしょう。同時に、切った木を使う方法の一つにもなります。今は作られなくなった穴窯の再現は、瀬戸物の発祥の地である瀬戸市の伝統の記憶を前に向かわせることになるでしょう。瀬戸の市街地を結び付ければ、まちづくりとしても楽しい試みです。

 7) 海上の里の民俗・文化の展示、多度神社の馬追い神事の復活

 海上の里の昔からの屋根の木造家屋は、里山の文化そのものです。その復元は昔の里山を知るために是非とも必要であり、そのような民家に農具や神事に使う道具などを収納・展示することがふさわしいことです。そこでは、竹細工やわら細工などの作業も企画したら楽しいと思います。海上の里では、今は途絶えていますが、戦前は年一度の祭礼として、多度神社の馬追い神事が行なわれていました。それを復活して、海上の里の大きなイベントになれば、市民と一緒に楽しむことができるでしょう。

 その他、たくさんあると思いますが、必要ならば、市民の提案を募って実施したらどうでしょうか。公園としては、それらのメニューを作成し、入園者の意向に合わせて園内を利用できるようにする工夫も必要です。 入園者や瀬戸市民の夢を大きくふくらますことができます。

 

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