市民が提案する
「国営瀬戸海上の森里山公園」のマスター・プラン

 

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 3)海上の森を含む猿投山一帯の重要性

 この里山マップ・林相図を詳細に検討すると、広葉樹林であっても遷移が進行して常緑樹林となったところもありますし、落葉広葉樹林が広く連続して分布する里山はほとんどなく、広葉樹林であっても工場・住宅地・公共施設・ゴルフ場などによって森が分断されているところが多くなっています。人工林が少なく落葉広葉樹林が分断されずに連続して広い面積を占めるのは、猿投山を中心とする海上の森一帯しかないことが分かります。豊田市・岡崎市などでも東部の丘陵地は里山となっていますが、人工林や松林が多く、広葉樹の森林がまとまって存在するところは限られています。そのようなところは、公園として囲われたところが多く、逆に行政的な囲いがなければ開発の対象にされてきたのだろうと思われます。それも、海上の森を含む猿投山一帯ほど、広い連続した森林となっているところはありません。

 海上の森を含む猿投山地は、まさに愛知県の中でかろうじて残され、落葉広葉樹林が広く連続して残っているところであることが分かりました。さらに、海上の森は西と東をつなげるポイントにもなっています。ここが開発されたら、猿投山一帯の森林はその連続性を絶たれ、生態系にも大きな影響を与えます。このようなまとまりを持って連続した広い広葉樹林が存在することが、海上の森の生物多様性を著しいものにしている原因の一つと考えられます。

 森の広さと生物の多様性との関係については、よく山に例えられます。山は底辺の面積が広く標高が高くなるに連れて急激に面積が減少します。小さな森ではヒヨドリしか生きていくことができなくても、森の面積が広がるとフクロウも生息するようになり、さらに面積が増えるとオオタカやイヌワシが生息できるようになります。つまり、森の面積が増えるほど餌が豊富になるからです。それは、ほ乳動物のムササビやタヌキにとっても同様です。また、広い森であれば、一部分が破壊(伐採)されても他に移動して生存を維持することができます。こうして、森が分断されないで面積が広くなるほど、たくさんの種類の生物が住めるようになり、個体数も多くなり、生物の多様性が維持されることになるのです。

 また、海上の森の特徴の一つは、貧栄養湿地の存在です。海上の森には、花崗岩の基盤の上に厚い砂礫層が存在するという地質構造により、砂礫層に貯えられた地下水が少しずつ供給されて絶えることがないために、湿地となるのです。砂礫層がチャートを主体とするので、溶け出す成分が少なく、貧栄養となるのです。これが海上の森にたくさんの貧栄養湿地が存在する理由です。湿地には、大きく成長するコナラやアベマキ、ツブラジイやアラカシなどは侵入できませんので、湿地環境に耐えられる植物だけが生き続けることができ、独特の湿地群落を作るのです。これは海上の森の特徴ですし、貴重さであり、そこには他の里山には見られない貴重な植物種が存在し、海上の森の生物の多様性を際立たせています。シデコブシ、サギソウが生育するのもそのような環境です。

 愛知県の湿地では、作手村の長の山湿原とか豊橋市の葦毛湿原などは良く知られています。しかし、他の地域はあまり知られていません。あっても小規模なものです(菊地ほか、1991)。猿投山の東の豊田市や藤岡町には砂礫層が堆積していますが、花崗岩の上に乗る砂礫層は薄く、厚いところではそのほとんどが陶土・珪砂の採掘のために開発されていますので、貧栄養湿地はほとんどありません。

◆貧栄養湿地 栄養分が少ない湿地を貧栄養湿地といいます。海上の森には、この栄養分が少ない湿地にしか生育できない植物も多く見られ、生物多様性が豊富な理由となっています。栄養分が豊富な湿地(富栄養湿地)は篠田池や赤池の周辺部で見られ、ヨシやセイタカアワダチソウ等大型の植物が繁茂しています。これに対して貧栄養湿地ではモウセンゴケやサギソウ等の背が低い、日当たりを好む植物が多く見られますが、これらの植物は、富栄養湿地では、他の植物との競争に負けてしまい、生き残っていくのは難しいのです。東海地方にはこのような貧栄養湿地が多く、この地方にしか見ることができない植物も、このような環境に生育していることが多いのです。

 

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